11/26(日)、東戸塚の幸和建設で開催されたイベント「第4回アーティスト&カーペンターフェスタ」にブースを出展しました。
子どもたちをたくさんの”楽しいしごと体験”に誘うイベント。わたしたち(一社)半原宮大工集団も、“ジャパニーズカーペンター”宮大工の文化と魅力を伝えるべく体験ブースを出展しました。
アーティスト&カーペンターのポスター
ブースの概要
大工道具が電動化し、身近に大工さんを見かけなくなった現代。ホンモノの大工道具ならではの「木と対話する」体験を、ホンモノの大工さんとの交流を通じて味わってもらうのが当ブースのねらいです。
今回のブースはこんな感じ
子どもたちにカンナがけを教えていただくのは、半原宮大工の継承者・鈴木光雄さん。ブース内には鈴木さんご所蔵の昔の大工道具も展示しました。
貴重な大工道具の数々
「やってごらん!」
開場してすぐ、ブースを見つけた小さなお客さんたちが駆け寄ってきます。大工の世界に興味津々の様子。
鈴木さんはカンナ削りのやり方の詳しい説明はしません。お手本に一削りして見せたら、すぐ「やってごらん!」と子どもたちにカンナを渡します。
始めから手取り足取り指導しないのが鈴木流。子どもたち自身のチャレンジを、後ろからニコニコと見守ります。
人生初のカンナがけチャレンジ。自分で出した初めての「削り華」を手にして、みんなニッコリ笑顔です。
見えない所に職人技
一発目から見事な削り華を出す子もいれば、そうでない子も。それでも2-3回で、みんなちゃんと削れます。
もちろん、こんなに上手くいくのはワケがあります。
子どもたちが削りやすいよう、カンナの刃先の出具合を絶妙に調整したり、凸凹になる材の表面を時おり平滑に整えたり。鈴木さんのさりげない職人技が光ります。
台ガンナと「削り華」
カンナ削りの木くずを「削り華」といいます。
名人の削り華の薄さはわずか数ミクロン。髪の毛よりも薄い、半透明の美しいテープです。
「台ガンナ」が室町時代に登場したことで、薄く平らで精密な削り加工が可能になりました。この技術革新により、日本が世界に誇る高い精度の木造建築が花開いたのです。
台ガンナと削り華
名人のような薄さはなくても、子どもたちにとっては自分の手で出した記念すべき削り華。
ジップロックの袋に入れ、オリジナルシールを貼ってお土産にしました。きょうの宮大工体験を思い出すきっかけになってくれればと思います。
大工道具の多彩さ
古い大工道具の数々は、当ブースのもう一つの見どころ。
日本の大工道具は種類の多さも世界一。かつての大工さんはふつう100種類以上の大工道具を持っていたそうです。宮大工ともなれば、寺社建築にしか使われない新旧の珍しい道具類も必要になります。
大鋸(おが)引きの実演
大径木用の巨大ノコギリ(大鋸)に、指先ほどの小さなノミ。曲尺(かねじゃく)やヤリガンナ。見たこともない道具の数々に子どもも大人も興味津々。鈴木さんの実演に歓声があがります。
職人の祭典
アーティスト&カーペンターは「職人の祭典」。さまざまな分野で活躍する地域の職人が集います。
キッチンカーでのフライドポテト体験。メスティンでの炊き出し体験。ドローンファイトや快眠寝具での健康睡眠体験。
好奇心をシゲキする楽しい体験の数々に子どもたちの目も輝きます。
キッチンカーでポテトフライ
エキサイティングだったのは、きたむら農園さんの薪割り体験。かつて暮らしの中にあった”薪割り仕事”は、いまや幻の激レア体験に。
見たこともない「薪割りマシン」に大興奮です。
薪割りマシンにビックリ
ブース同士の「連携プレー」
そのきたむら農園さんのブースから、当ブースに一本の材が届きました。広葉樹のクスノキの薪です。
スギやヒノキなどの針葉樹は、軽くて柔らか。繊維はまっすぐで台ガンナ向きの材です。
一方広葉樹はカタくて重く、繊維は複雑に曲がっています。広葉樹の薪のような粗い材に台ガンナをかけるのは、至難の技。
そこはプロの大工の鈴木さん。職人魂に火がつき、手こずりながらも見事にクスノキの削り華を出してくれました。
クスノキの削り花
香りを味わう
“香り”もまた、木に触れる体験のひとつ。
ヒノキの削り華は高い芳香を放ちますが、クスノキの削り華の香りは「強烈」。タンスの虫除けに使われる樟脳(しょうのう)の原料でもあります。
2つのブースの華麗な連携プレーによって、木のテーマにマッチしたオリジナルのお土産アイテムが生まれました。
子どもたちの「成長ゾーン」
好奇心を刺激された子どもが「もっとやりたい!」と思った瞬間、子どもは学びと成長のゾーンに入ってます。
いままさに学びが起きようとする、最高の状態です。
しかしふつうのイベントオペレーションでは、より多くの方への体験機会提供を優先するため、ブース体験は1人1回限り。時間制限もあります。
せっかく「もっとやりたい!」と火が付いた子どもを、”生焼け”のまま送り出さねばならないのは、ほんとうに残念なことです。
しかし今回は違いました。
高い「体験密度」を実現
あいにくの天気で客足の伸びはイマイチでしたが、逆に子どもたちは体験し放題。気に入ったブースには何度でもリピートしに戻ってきます。
時間を忘れて何度でもチャレンジ
火がついた子どもの成長スピードは驚くほど。周囲の人の声援も受けて、メキメキと上達していきます。
「ゾーン」に入った子どもに対しては、鈴木さんの教え方も変わります。「カンナをもう少し斜めに!」と、より高度な技術指導も飛び出します。
仲良しになった子どもたちから「師匠、師匠!」と慕われて、鈴木師匠も満面の笑みでした^_^
まとめ
終わってみれば、ブースを埋め尽くすほどの削り華!これまでのカンナがけ体験で文句なく過去一の量でした。
体験の「質」も大切
例年に比べお客様は少なかったようですが、その分密度の濃いブースサービスが提供できました。客数だけでなく「体験密度」も考えていく大切さを実感しました。
子どもたちを「信頼」する
鈴木師匠から学んだのは、
「現代の大人は”教えすぎ/手助けしすぎ”の過保護教育に陥りがちではないか」
ということ。
これは裏返せば「子どもたちの自分で学ぶ力を信頼していない」ということかも知れません。
◆事前説明はし過ぎない。まずは自分で自由にやらせてみる。
◆しかしもちろん”教えない”わけではない。成長ゾーンに入った瞬間を見逃さず、タイミングを見極めて一押しする。
◆子どもたちが自然に「自分の力でできる」ように、見えないところで環境(アフォーダンス)をデザインする。
◆「放任」でも「監視」でもなく、「見守る」。
奥の深い学びの環境デザインは、鈴木師匠ご自身が経験された日本の職人文化に根ざすものではないかと考えます。
ブースの「化学反応」
「ブース体験は各ブース内で完結」というのがこれまでの発想。しかし、複数のブースサービスが交流や連携プレーをすることで”化学反応”や”ストーリー”が生まれれば、より高次元の楽しみが実現します。
ここから「ブース同士の化学反応をデザインする」という新しい創発的な場のデザイン理論が生まれるかも知れません。
「アーティスト&カーペンター」は、主催者の幸和建設工業武田社長の哲学に共感する優れた職人が集まるイベント。たくまずして、素晴らしい創発力のある場が生まれているのではないか。
子どもたちとつくったたくさんの楽しい体験を振り返りながら、そんな感想を抱きました。